医療機関の看板娘
■商品に「人」という付加価値をつける
昔は、「看板娘」というお嬢さんがよく店先にいた。器量よし愛想ヨシの可愛いお嬢さんが、店先で微笑むだけでお客さんは気がつくと、足をひきよせられていた。そこでちょっとした会話を楽しみ、帰り際に、「ありがとうございました、また寄ってください。」と声をかけられるだけで、「また来よう!」、と思ったものである。近年のような様々なサービスの蔓延する時代と違って、「同じものを買うならあそこで買おう。」と思わせるそのサービスは、本当の意味での最高のサービスだったと思う。
このように人は、商品に「人」という付加価値をつける。これは今も昔も変わらない。同じ商品であってもそこに介在する人に惹かれ、店や商品を選ぶ。それだけに、その商品を販売する人に不満があったり、その人が辞めてしまうことで店を変えたりもする。この心理を利用し、最近の販売員は、自分がいるときに来店してもらえるよう、出勤日を書いたカレンダーを事前にお客様に手渡す、転勤時にはお知らせやお礼のはがきを送る、など自分への価値を強く感じてもらえるような工夫をしている。
■医療現場における人の価値?
さて、医療の現場における人の価値はどうだろうか。「あなたがいるからここに来ている」と言ってもらえるようなプロ意識を、どれだけ患者様に与えているだろうか。反対に、「あの人の態度がね…」と、マイナスな看板を掲げているようなことはないだろうか。「自分では、きちんとやっているつもり」であっても患者様からの評価がなければ、残念なことにそれは「できていないこと」として評価される。患者様の求めているものに合わせた対応、そのために、「患者様との価値観合わせ」を、行っていかなければならない。価値観合わせ、それは患者様の価値観を再確認し、そしてそれに会話や応対を合わせていく作業だ。
以前、自費専門の歯科医院の開業に携わった時のことである。自費オンリーということで、それなりのサービスが必要であることはスタッフ皆が理解していた。価格に合うサービス、そのために様々なツールも用意した。患者様を呼び入れるのではなく「案内する」という意識を持って、ウェイティングルームでお待ちの患者様を丁重にお迎えにあがった。その際の声のかけ方、歩き方も皆でチェックした。様々なトレーニングを行い、これで万全と感じたとき、私はスタッフの皆様にお願いした。「自分の財布から1万円を持って、休みの日にスケーリングを受けに来てください。」
スタッフが休みの時に、それもそんな高額なお金を出させるなんて、と院長は横であたふたしていた。しかし、「なぜ同じ金額でありながら、患者様から出る一万円とスタッフから出る一万円とでは、どうしてそう価値観が違うのですか?」と問い返した。患者様も、自分の余暇の時間から、歯科医院に来院する時間を捻出する。そして、バッグや化粧品など、自分の趣味や楽しみのために遣うお金が入っている財布から、治療費を出す。それを受けいれる私達も、財布から出されるお金の重みを同じ思いで感じなければならないと思うのだ。そして、「こうして欲しい」、という患者様の本当の思いを知ることで、自分達のサービスに何が足りないかを知り、具体策を考えていくべきではないだろうか。
自分達の準備した最高の医療に最高のサービス、そして、それに対し患者様が支払う治療費とそれに見合う満足感。この価値観を合わせていくことで、患者様との距離感を縮め、患者様の気持ちになって会話ができる。人の心を暖かくできるような会話。そんな会話の出来る「看板娘」に、いくつになってもなりたいと思う。