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医療経営情報(2019年1月10日号)

2019/1/31

◆ 「療養病棟入院基本料1」の約7割が報酬請求額アップ         「療養病棟2」は約4割が大きくダウン 診療報酬改定の影響

――一般社団法人日本慢性期医療協会
日本慢性期医療協会は11月27日、「平成30年度同時報酬改定影響度調査」の集計結果を公表。「療養病棟入院基本料1」を算定している病院の約7割で、平均請求額がアップしていることがわかった。一方、「療養病棟入院基本料2」を算定している病院は、約4割が3%以上ダウンしていた。重症度の高い患者を受け入れる病棟を高く評価する診療報酬改定だったことが裏付けられた格好だ。

今年実施された診療報酬改定の目玉のひとつが、入院基本料の再編・統合だ。旧7対1、旧10対1が廃止された急性期医療の一般病棟入院基本料が最も注目されたが、長期療養の療養病棟入院基本料も再編・統合された。従来は20対1、25対1に分かれていたが、20対1に一本化されている。その中で「療養病棟1」と「療養病棟2」を分けているのが、医療区分2・3の該当患者割合だ。「療養病棟1」が80%、「療養病棟2」が50%と2段階になっており、報酬は「療養病棟1」は800~1,810点、「療養病棟2」が735~1,745点。その差は65点だが、入院が長期にわたる患者が多いだけに収益格差は大きくなる。

そもそも、「療養病棟2」は今年度中の廃止が決定している。2年間の経過措置が設けられているものの、政府および厚生労働省としては「療養病棟1」もしくは介護医療院への転換を促したい意向を示している。日本慢性期医療協会の今回の調査に回答した病院数は198と母数が少ないため、一概にはいえないが、「療養病棟2」で収益向上を図るのが難しいことは間違いない。医療機関の体制や方針にもよるが、医療体制を拡充させて「療養病棟1」への転換を図るのが得策とも読み取れよう。

そうなると重みを増してくるのが、医療法人・社会福祉法人の合併・経営統合をめざす政府方針だ。財務省は以前から提言していたが、11月26日の未来投資会議、経済財政諮問会議、規制改革推進会議、まち・ひと・しごと創生会議の合同会議で提示された「経済政策の方向性に関する中間整理案」で明記され、今後推進策が打ち出されていく見込み。超高齢社会、人口減少社会に突入している現在、病棟再編は待ったなしの状態。膨らみ続ける社会保障費の抑制を進めるうえでも、医療費の多くを占める入院料の見直しは今後も行われていくだろう。その結果、経営不振に陥る病院が増えれば、必然的に合併・経営統合のニーズも高まっていく。そうした情勢を踏まえ、病棟の転換を検討するだけでなく、先を見据えた戦略の構築が必要となってくるのではないか。

◆ 平均乖離率は薬価約7.2%、材料価格約4.2%
2018年9月分速報値 後発医薬品数量シェアは約72.6%

――厚生労働省 中央社会保険医療協議会総会
厚生労働省は、12月5日の中央社会保険医療協議会総会で、2018年9月取引分の医薬品価格調査(薬価本調査)および2018年5~9月分の特定保険医療材料価格調査(材料価格本調査)の速報値を公表。平均乖離率は薬価が約7.2%、材料価格が約4.2%だった。消費税増税に伴って実施される2019年10月の診療報酬改定では、この結果をもとに薬価の引き下げ幅が決定される。同時に公表された後発医薬品の数量シェアは約72.6%だった(後発医薬品の数量シェアは、「後発医薬品のある先発医薬品の数量」+「後発医薬品の数量」を「後発医薬品の数量」で割った数値)。

平均乖離率は、現在の薬価や材料価格が市場の流通価格と比べてどの程度の差があるかを表す指標。「現行薬価×販売数量」から「実販売単価×販売数量」をマイナスし、「現行薬価×販売数量」で割ることで導き出されている。つまり、薬価は流通価格より約7.2%、材料価格は約4.2%高いということを示している。この数値が大きな意味を持つのは、診療報酬改定において、実勢価格に合わせるため薬価を引き下げるからだ。平たくいえば、社会保障費を圧縮するための手段となっている。

2019年度予算では、当初社会保障費の自然増が約6,000億円と見込まれていた。しかし、10月に開催された経済財政諮問会議で、民間議員から「5,000億円増を下回る増加に抑制すべき」と提言がなされたため、1,000億円以上の抑制を目指して財務省と厚労省の間で調整が進められてきた。その手段として注目されてきたのが薬価の引き下げ。2018年度予算でも、社会保障費の自然増を約5,000億円に抑制するため、薬価を1.7%程度引き下げている。

しかし、2017年9月分の薬価の平均乖離率は約9.1%であり、今回公表された数値とは約1.9ポイントの開きがある。薬価引き下げのみで補填するのは困難であり、2017年度から段階的に導入している介護保険料の総報酬割によって得られる財源も含めて、1,000億円分の抑制を実現させたい意向だ。

◆ 上手な医療のかかり方で「5つのポイント」を提示     「抗生物質が風邪に効かない」など具体的な啓蒙も

――厚生労働省 上手な医療のかかり方を広めるための懇談会
厚生労働省は11月28日、「平成30年賃金構造基本統計調査(初任給)」の結果を公表。「医療・福祉サービス業」の大卒初任給(男女計)は前年比1.7%減の20万1,500円となった。男性は前年比1.0%増の20万5,000円。女性は前年比2.8%減の20万200円。なお、「学歴別にみた初任給」では、男女ともすべての学歴で前年を上回っている。

「医療・福祉サービス業」の初任給を学歴別に見ていくと、階層別に格差が存在していることがわかる。ひとつずつ挙げていこう。高校卒は男女計で0.1%増の15万9,200円、男性は3.8%減の16万100円、女性は1.1%増の15万8,900円。高専・短大卒の男女計は0.4%増の18万3,700円、男性は0.3%増の19万100円、女性は0.4%増の18万2,500円。大学院修士課程修了の男女計は1.5%減の20万1,300円、男性は5.0%増の20万8,900円、女性は7.3%減の19万7,900円。

これらを分析すると、高校卒男性は2017年よりも下がったものの、女性の初任給との差は縮まっており、格差が解消されたと見えなくもない。しかし、全産業平均の高校卒初任給は男女計で16万5,100円、男性16万6,600円、女性16万2,300円といずれも医療・サービス業よりも上回っている。大卒者も、高卒者と同様に男女格差の解消へ向かっているとも受け取れるが、全産業平均は男女計で20万6,700円、男性21万100円、女性20万2,600円であり、やはり医療・福祉サービス業よりも上回っている。少なくとも賃金面に関しては、高卒者並びに大卒者にとって魅力ある産業とは言い難い状況となっている。

深刻なのは大学院修士課程修了者に対する賃金だ。全産業平均の男女計は23万8,700円であり、実に3万7,400円もの差がある。医療・福祉サービス業の男性修了者は前年比5.0%増となっているが、全産業平均は23万9,900円であり、3万1,000円もの格差がある。女性は、全産業平均が23万4,200円であるため、その差は3万6,300円だ。このような状況では、医師・看護師といった医療職をめざして学ぶ学生以外を働き手として確保するのが難しくなるのではないかと危惧される。「医療・福祉サービス業」という広い括りとなっているため、医療機関のみならず介護施設や福祉施設なども含んでおり、この調査結果が医療界の現状を示しているとは一概にいえないのは事実。とりわけ、介護業界の賃金は全産業平均よりも低いため、その賃金額が「医療・福祉サービス業」としての初任給を下げている可能性は高い。しかし、どの産業でも持続可能性を求めるならば、裾野を広げて他産業との連携も視野に入れていく必要がある。しかも、今後は地域包括ケアシステムの構築がさらに進み、介護分野との連携は経営的にも欠かせない視点となってくるだろう。そうした意味も含め、いわゆる医療職以外の人材を広く集めるためにも、全体の賃金の底上げを検討するべき時期が来ているのではないか。

◆ 厚労省、看護師の特養などへの日雇派遣に対するニーズを調査     約70万人いる「潜在看護師」は短期派遣で働く希望者多数

――規制改革推進会議 専門チーム会合
厚生労働省は、12月6日に開催された「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」で、「上手に医療にかかるための5つのポイント」を提示。「抗生物質は風邪に効かない」など具体的な啓蒙案も盛り込んでいる。一般国民向けの施策とはいえ、2018年4月の診療報酬改定で新設された「小児抗菌薬適正使用支援加算」を推進する内容であり、今後小児科以外の診療科や調剤薬局にも同種の加算が適用される可能性が出てきた。

この日の懇談会で5つのポイントとして提示されたのは、以下のとおり。

● 病気やけがはまず#8000(子ども医療電話相談)や#7119(救急)へ電話を。
● 医師と話すときは、自分の聞きたいことを紙に書き出して整理し、ためらわないで聞きましょう。
● 薬のことで質問があればまず薬剤師に相談しましょう。
● 抗生物質は風邪には効きません。
● 慢性の症状(数週間以上前からの同じ程度の症状)であれば日中にかかりつけ医を受診しましょう。

このうち注目したいのが4つめの「抗生物質は風邪には効きません。」である。日本では単なる風邪でも抗生物質が処方されることが多かった。中でも、肺炎を引き起こす細菌に作用するセファロスポリン系のフロモックスやフルオロキノロン系のクラビット、マクロライド系のクラルスなどが処方されてきたが、これらはウイルス性の風邪やインフルエンザには効果がなく、むしろ耐性菌を増やしてしまう薬剤耐性(AMR)のリスクがある。とりわけ乳幼児に副作用が出やすいため、2018年4月の診療報酬改定で小児科外来診療料および小児かかりつけ診療料を対象に、抗生物質の適正使用を促す「小児抗菌薬適正使用支援加算(80点)」を新設。入院患者向けにも同様の加算として「抗菌薬適正使用支援加算(100点・入院初日)」が新設された。

これらの動きの背景には、AMR対策のみならず、薬剤量を減らす意図もあると思われる。効果の有無が判別できない症状であっても「念のため」と処方されてきた抗生物質は、診療報酬の上乗せに寄与してきたことは間違いないからだ。もちろん、ポリファーマシー対策としても処方薬を吟味することは有効であることから、「上手な医療のかかり方」と啓蒙の体裁をとって医療機関を牽制したとも受け取れる。

ただし、医療の現場からは、薬剤耐性(AMR)対策として現状の施策では不十分との認識も広まっている。全国保険医団体連合会は、診療報酬改定直前の2018年2月末に「薬剤耐性(AMR)対策に係る緊急要望」を当時の厚生労働相および同省保険局長、保健局医療課長あてに提出。「AMR対策が急務であることは論を待ちません」としつつ、「診療実績が少なく数々の不備の指摘や疑問の声が出されている」とした。また、厚労省が2017年6月に作成し、前述の加算の算定要件とした「抗微生物薬適正使用の手引き第一版」についても、同連合会が緊急に実施したアンケートで52%が「妥当でない部分がある・妥当とは思わない」として、「抗菌薬が必要な患者にも AMR対策として抗菌薬が投与されないために疾病が重症化し、最悪の場合、手遅れとなって死に至ることが想定されます」とまで言及している。抗生物質の適正使用は当然推し進められるべきだが、まずは医師側が納得できるような「手引き」に改訂することも急がれるのではないか。

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