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医療経営情報(2016年10月27日号)

2016/11/2

◆ 「かかりつけ医以外の受診」での定額負担
反対多数で見送りの公算高まる

――厚生労働省
10月26日、厚生労働省の諮問機関である社会保障審議会の医療保険部会が開かれ、外来受診した先がかかりつけ医以外だった場合、一定の額を自己負担とする制度を導入すべきか議論が展開された。しかし、出席委員からは反対意見が続出。厚生労働省も慎重な姿勢を示さざるを得なくなっている。

かかりつけ医以外を受診した場合に定額負担を求める案は、昨年末に内閣府の経済財政諮問会議がまとめた「経済・財政再生計画」に明記されている。財務省も、10月4日に財政制度等審議会で同案の導入を提言。余分な検査費用や薬代を減らし医療を効率化するため、「かかりつけ医」での受診を推奨していた。

財務省は、2011年にも医療機関受診時の定額負担を提案。すべての医療機関を受診するごとに、1回100円程度の定額を徴収する案だったが、一般外来患者のみが負担することの根拠が不明確であることなどから、医療界を中心に反発が強く、検討課題として先送りされた。今回は「かかりつけ医の普及」という政府の方針に歩調を合わせた提言だったが、想定以上の反発の強さに遭った格好だ。医療保険部会では年末までに制度改正案をまとめたい意向のため、またもや時間切れとなって先送りになる公算が高まったと言えよう。

このように何度も齟齬が生じている背景には、「かかりつけ医」の定義が不明確であることが挙げられる。内科、外科、耳鼻咽喉科など複数の診療科を受診し、それぞれ別の医療機関だった場合は、事実上「複数のかかりつけ医」がいる矛盾した状態となる。現在の財務相の提言では、「かかりつけ医は1人」としているため、仮に複数の中から選ぶとしても、どのような基準になるのか、一度選んだら変えることはできないのかなど、混乱を呼ぶことは明白だろう。

40兆円超にまで膨らんでいる医療費を削減するため、政府および財務省は、待ったなしで制度改革を促す姿勢だったが、今回の社会保障審議会の猛反対を受け、仕切り直す必要が生じたと言えそうだ。
◆ 未来投資会議 医療現場の生産性向上にはさらなるIT化が必要
開業医や中小病院にも活用できる仕組みづくりも検討

――未来投資会議 構造改革徹底推進会合
10月26日、政府は未来投資会議構造改革徹底推進会合の「医療・介護―生活社の暮らしを豊かに」を開き、医療や介護でいかにICT(情報通信技術)を活用するかを議論した。

同会合副会長の高橋泰氏(国際医療福祉大学医療福祉学部長)は、医療・介護におけるICT活用状況のレベルを3段階で示した。第1段階は「アナログ情報がデジタル情報に置き換えられたステージ」、第2段階は「記録の省力化や情報の利活用がある程度可能になったステージ」、第3段階は「AIで高付加価値化された情報が現場にもフィードバックされるステージ」としている。

高橋氏は、現在急性期病院の多くが第2段階に入りつつあるとし、今後は第3段階へ進むべきと指摘した。第3段階へ進むための方策としては、まず「用語や情報記載方法の標準化」を挙げた。単一の医療機関を超えて情報が活用できるように、国が統一フォーマットを指定するべきだと提言。統一フォーマットに準拠した電子カルテシステムを使用することで、DPCの機能係数(包括医療費支払い制度)が加算されるなど、診療報酬上の支援も行うべきだとした。

そして、「AIで高付加価値化された情報提供が可能な技術開発支援」も必要だと指摘。研究のためには医学とIT界の協業が求められるほか、実用に耐えうるプロダクトであるかを検証するために、多数の医療機関に協力を求めたい意向も示した。そのためには、公的機関の設立など、国を挙げての取り組みが必要だとした。

この提案を受けて、他の出席者からは「急性期病院だけでなく開業医や中小病院もICTを活用できる仕組みを進めるべき」との意見もあがった。10月19日に、厚生労働省の有識者懇談会での「患者の治療歴を一元管理し、全国の医療機関で共有できるようにすべき」といった提言と同様の内容であり、治療情報の共有化はひとつの大きな流れとして実現へと向かっていると言える。治療情報の共有は、検査費や薬代の重複を防ぐのにも効果的であり、医療費の削減が大きなテーマとなっていることを考えれば、近い将来現実化されると想定しておいたほうが良さそうだ。
◆ ジェネリック使用割合の17%底上げで
約6,000億円の医療費抑制が可能と試算

――経済財政諮問会議
10月21日、首相官邸で行われた経済財政諮問会議で、価格が安いジェネリック医薬品(後発医薬品)の使用割合を底上げすれば、約6,000億円の医療費削減が実現できる可能性があると有識者が示した。

同会議で提示された資料では、2016年3月の都道府県別ジェネリック使用割合をまとめている。もっとも多いのは沖縄で75.2%、もっとも低いのは徳島で53.3%と、20%近い開きがあった。全国平均は63.1%だった。

これを踏まえ、同提言では段階的な底上げを改革案として提示。来年度にはかねてからの政府目標と同様の70%以上へ、2018年度から2020年度末までのなるべく早い時期に80%以上へと底上げするべきだとしている。そして、この底上げを実現すれば、約6,000億円の医療費が抑制できると試算した。現状から約17%アップは厳しい数値目標だが、各都道府県が目標を達成することで実現可能との判断だ。

そもそも、ジェネリック医薬品は厚生労働省が積極的に使用を促進してきた。しかし、今年の診療報酬改定以降、使用割合の伸びが鈍っていたこともあり、さらなる促しを求めた形だ。

一方、同会議では、現状の傾向が続くと2023年度には医療費が51.2兆円に達するとも推計した。高齢化だけでなく、医療の高度化に伴って診療報酬も増加することを想定。現在の40兆円超から10兆円超も膨れ上がると予測した。

こうしたデータが、政府に危機感をもたらしているのは明らか。同会議後、安倍晋三首相は改革の具体化に向けた検討を加速するよう塩崎恭久厚生労働相へ指示している。オプシーボの緊急薬価引き下げも含め、薬価制度の抜本的改革も検討が進んでおり、ジェネリック医薬品の推進は今後もますます強まりそうだ。
◆ LINEに皮膚科医への相談所が登場
ソーシャルホスピタルへの動きが加速か

――ロート製薬
10月24日、ロート製薬はコミュニケーションアプリ「LINE」に「メンソレータム お肌の相談室」を開設した。同社のスキンケア商品のブランドである「メンソレータム」のLINE公式アカウントに「友だち登録」をすれば、誰でも皮膚科医から個別にアドバイスが得られる仕組みだ。

具体的には、ユーザーがLINE上で肌の悩みをテキストや写真で相談すると、トーク画面で皮膚科医が可能性のある疾患などを回答する。登録、回答ともに無料。皮膚トラブルに見舞われたとき、すぐ皮膚科を受診できないユーザーのニーズに応える形となっている。

このサービスは、ITを活用したマーケティングやインターネット広告などの事業を展開するトランスコスモス社が提供する「オムニチャネルサポート Powered by LINE ビジネスコネクト」を活用したもの。「LINEビジネスコネクト」は、企業とユーザーの双方向コミュニケーションをサポートするLINE社の法人向けサービス。 相談を担当する皮膚科医は、オンライン上で医療Q&Aサービスを行っている「Doctors Me」が協力をする。

今回の「メンソレータム お肌の相談室」は、医療・健康情報を提供するサービスという位置づけであり、いわゆる「遠隔診療」には該当しない。しかし、昨年8月に厚生労働省が遠隔診療を事実上解禁してから、同種の医療・健康相談サービスが増えてきている。そもそも、遠隔診療は離島や僻地の患者を診察する場合に該当するとされてきたが、そうした地域以外でも、いわゆるセカンドオピニオンのように、他の医師からアドバイスを得たいというニーズが増してきたことの表れだろう。

さらに、遠隔診療の推進は、医療費抑制につながると政府が考えているのも見逃せない。医療機関のみでケアをするのではなく、社会全体が医療の担い手となる「ソーシャルホスピタル」が実現すれば、より医療資源を効率的に活用できるようになるからだ。

医療機関にとっては、現時点で遠隔診療の導入は現実的ではないだろう。診療報酬制度が、遠隔診療の利用を前提とした形では整備されていないからだ。しかし、今回の「メンソレータム お肌の相談室」のようなプラットフォームが次々に増えれば、「オンラインで医師に相談する」ことが当たり前の時代になってくる可能性もある。民間企業がオンライン医療事業への布石とも思える手を打ってきている今こそ、医療機関としてもどのような形で遠隔診療に参入するべきかを考慮すべきタイミングかもしれない。

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